「ル動詞」についての一考察-「みんなで作ろう国語辞典」に出た「ル動詞」を中心に

(整期优先)网络出版时间:2017-02-12
/ 3

「ル動詞」についての一考察-「みんなで作ろう国語辞典」に出た「ル動詞」を中心に

高明

云南大学滇池学院讲师650228)

研究方向:日本社会日本教育

要旨

近年、「枝る」、「ヤフる」、「タヒる」など目新しい言葉がよく日本人の会話やインターネットのフォーラムに現れてきた。本稿では、「『もっと明鏡』大賞みんなで作ろう国語辞典!」(2006年~2011年)に出てきた「体言+る」の語形の「ル動詞」を中心に「ル動詞」の種類?特徴?機能などについて簡単に考察してみた。「ル動詞」はほとんどアクセントが全高の3音節の単語で、すべて五段活用している。「ル動詞」の使用によって、会話のスピードを速めたり、内容をユーモアにしたり、発話を和らげてよい人間関係を構築したりすることができる。「ル動詞」は正しいか、乱れているかとは一律に論じることができない。それは合理的な言語の変化のひとつで、今後も続けると思われる。

キーワード

ル動詞『もっと明鏡』大賞若者イメージ

0.はじめに

「告る(告白する)」、「事故る」、「トラブる」、「マクる(マクドナルドへ行く)」など、「体言+る」の語形を持つ動詞がしばしば見かけられる。米川(1996)はそれらの「~る」形の言葉を「“る”ことば」と名付け、それが現代若者言葉の一種と指摘した。「“る”ことば」を調べれば、一時だけ流行っていて、その後死語になった言葉もあるし、長い間使われていて、広辞苑などの辞書に載っている言葉もある。本稿では、「『もっと明鏡』大賞に出た「体言+る」の語形の言葉を中心に「ル動詞」の定義?形態?種類について分析し、その特徴や機能などを明らかにすると考える。

1.「ル動詞」とは

「ル動詞」とは体言に動詞化する接尾語「る」をつける方法で、動詞化したことばのことである。つまり、述語動詞の代わりに、「る」が使われ、「事故を起こす」ということを「事故る」、「スターバックスでコーヒーを飲む」ということを「スタバる」と短く簡潔に表す言葉である。米川(1996)はその言葉を「“る”ことば」と命名している。本稿では、「ル動詞」と記したい。

「ル動詞」は近年始まったことではなく、昔から造語能力の高い言葉として、江戸時代から使われてきた。鄭(2007)の調査では、「痴話る」が一番古く用いられている言葉であるとしている。江戸時代から「ル動詞」が段々増え、特に平成時代に入ってから、次々に新しい言葉が作られている。2006年より、『明鏡国語辞典』の大修館書店では、新しく作り出された言葉、特定の世代?業界?地域で使われる言葉などを全国より募集するキャンペーン「『もっと明鏡』大賞みんなで作ろう国語辞典!」(以下は「大賞」と略称する)を6年間も連続して行った。毎年公表されたもっとも人気の100の見出し語の中に出てきた「ル動詞」を統計した。2006年の6語から2011年の39語(ほぼ4割)まで急増したことで「ル動詞」が若者に愛用されていることが分かった。

2.「ル動詞」の分類と特徴

2.1「ル動詞」の分類

「ル動詞」を見ると、語幹部の語種は様々である。「黄昏る」のように漢語から変化したものもあれば、「イモる」のように和語(芋)から変化したものもある。さらに、「コピる」のように外来語から変化したものもあれば、「ポニョる」のように「ポニョポニョ」というオノマトペから変化したものもある。

前文に言及した「大賞」に出来きた「ル動詞」(6年間分、計54語、重複した語は1つと見なす)を語幹部の語種により、下記の表のように分類した。

和語(20語)イモる(芋)、オタる(お宅)、ガチる(がちんこ)、神る(神)、しゃしゃる(しゃしゃり出る)、しける(しけ)、しくる(しくじり)、グチる(愚痴)、グネる(方言)、黄昏る(黄昏)、カメる(亀)、欠る(欠)、チクる(口)、ツボる(壺)、ダベる(駄弁)、ハブる(村八分)、ブチる(ブッチ)、パシる(使いっ走り)、与謝野る(与謝野晶子)、ラリる(らりるれろ)

漢語(6語)

告る(告白)、キョドる(挙動)、赤る(赤外線通信)、事故る(事故)、詐欺る(詐欺)、タヒる(死)

外来語(24語)オケる(カラオケ)、エコる(eco)、ういる(will)、ググる(google)、写メる(J-Phoneサービス名)、コムる(WILLCOM)、ザビる(宣教師フランシスコ?ザビエル)、コピる(copy)、テンパる(聴牌)、デコる(decoration)、ディスる(disrespect)、テクる(technique)、チキる(chicken)、タクる(taxi)、ダブる(double)、バグる(bug)、ハモる(harmony)、パニクる(panic)、ポキる(poke)、ファミる(familymart)、メタボる(メタボリックシンドローム)、ミスる(miss)、マクる(mcdonalds)、ヤフる(yahoo)

オノマトペ(4語)グダる(グダグダ)、パクる(ぱくぱく)、ポニョる(ポニョポニョ)、ピヨる(ピヨピヨ)

上記の表を見ると、和語、漢語、外来語よりいずれも「ル動詞」が作られるが、和語と外来語の比率が高いことが分かった。サ変動詞が漢語より作られることが多いのと対照的である。

2.2「ル動詞」の特徴

造語法と分類から「ル動詞」の特徴を分析した。以下のようにまとめてみよう。

a.造語法からの特徴としては、省略が多いことが見られる。基本的に、体言の語頭の2拍を残し、語尾に「る」をつけて動詞化している。拍数は、ほとんど3拍である。窪薗(2006)は、「ることば」は「始めが肝心」という略語の大原則に従い、「語頭の二モーラを残す」という日本語の伝統的な規則に従っていると述べている。「ル動詞」のアクセントに関しては、ほとんど全高の●●●型であると井上(2011)が示している。三宅(2002)は「ル動詞」は、文法的に全て五段活用をしていると言っている。

b.表現するイメージから見ると、プラス、ニュートラル、マイナスの3つのイメージともあるが、マイナスイメージのル動詞が多い。そして、普通の動詞に比べると、「ル動詞」はからかうニュアンスや娯楽性、ユーモアを持つものが多いと思われる。

c.人名に「る」をつけた「ル動詞」は一時流行っているが、人気がなくなるとすぐに使われなくなって、ほぼ「死語」に近いと思われる。「大賞」に選ばれた「与謝野る」は与謝野晶子の歌集「みだれ髪」に由来し、寝癖などで髪が乱れているのを指して、若者同士で「すごく与謝野ってるよ」などと言っていた。しかし、今死語に近づいていると思われる。固有名詞による「ル動詞」がブームになっている時だけ使われて、一過性を持つという特徴があると言われる。

3「ル動詞」が流行っている理由

近年、「ル動詞」の言葉をよく耳にするようになり、注目されている。「ル動詞」が流行る理由を下記のようにまとめてみよう。

a.「体言+る」は簡単な造語法で、造語力も強い

日本語動詞の多くが語尾「ル」であることで、「体言+る」形式の動詞は、語幹の語が動作性の意味があるかないかにかかわらず、語幹に、活用語尾「る」をつけることで、簡単に「ル動詞」をつくり出すことができる。造語力が強いことで、次々に新しい言葉がなされて、社会の様々な領域に浸透してきた。

b.コミュニケーションが促進できる

社会の発展とインターネットの普及により、新しい事物がどんどん生まれ、世界中の情報も爆発的に増えてきている。それに伴って、人々の価値観や生活スタイルもグローバル化?多様化になってきている。そのため、たくさん日本にもともとなかった新しい事物を表現するには新しい言葉が必要となって、「ル動詞」はたくさんつくり出されている。ググる(googleで検索すること)、マクる(マクドナルドに行くこと)などがその例である。そして、米川(1998)は、「“る”ことば」は会話のスピードを速め、テンポをよくすることや娯楽性を高め、会話を促進することなどを挙げている。

例:母:「あなたの結婚のことを考えると、心配で心配で夜は全然寝れないのよ」

娘:「お母さん、そのわりにはポニョったね」

「ポニョる」とは厚みがあり、柔らかい感じを表現する「ポニョポニョ」に接尾語「る」を付けたもので、太ることや太っていることを意味する。「ポニョる」の使用によって、会話がおもしろく、楽しくなると言える。

c.発話内容を和らげる機能がある

「ル動詞」が流行るもう一つの理由として、会話の中で、マイナスイメージの語をニュートラルまたはプラスイメージの「ル動詞」で表現し、発話内容を和らげて相手の気持ちを配慮する機能があると思われる。

例:A「先週のテニスでラブったって、本当に残念ですね。」

B「はい、また頑張ります。」

「ラブる」とはテニスなどの試合で、0点で負けることである。「0」のことを「ラブ(love)ということからである。Bさんが言いにくいことを「ラブる」で表現することによって、相手を傷つけないようにしている。それで、相手との円滑な人間関係を維持することができる。

4「ル動詞」に対する認識

最近若者を中心につくり出された「ル動詞」は社会全般に広がっていって、幅広く使われているが、日本人が「ル動詞」に対するイメージを調べてみると、プラス、ニュートラル、マイナスと3つに分かれることが分かった。「便利で、使いやすい」というプラスの意見がある。「日本語の乱れ、理解しにくい」というマイナスの意味もある。「社会の発展にしたがって、言葉が変わっていくのも仕方ない」というニュートラルな意見もある。年代別から見ると、世代が上がるにつれて、「ル動詞」の使用率が下がっていて、イメージもマイナスのほうになっていく。

言葉はその時代の社会や文化を反映している。言葉は世代交代の中で変わっては定着、定着しては変わっている。井上史雄(2006)は次のように指摘している。世の中で誤用と騒がれる現象は、どうせ広がる。はじめは使用者が少なく、「言い間違い」と軽視される。使用者が25%くらいに増えると、「誤用」として騒がれる。50%前後になると「ゆれ」と扱われる。75%ほどに増えると「慣用」として認められ、100%近くになれば立派な「正用」である。使用率が増えるにつれて、使われる場面も広がる。若い人が仲間内の話言葉で使うだけだったことばが、成人にも使われるようになり、テレビなどの公の場面にも登場し、広告の文章や、書きことばにも現れるようになる。つまり俗語から普通の単語へと、文体も上昇するわけだ。この動きは「誤用拡大の法則」と言ってよい。それゆえ、「ル動詞」は「日本語の乱れ、正しい日本語ではない」と一律に論じることができない。多くの言語変化は変わる合理的な理由がちゃんとあって、今後も続けると思われる。

5おわりに

以上のように、「大賞」に出た「ル動詞」を中心に「ル動詞」の定義?種類?機能などについて簡単に考察してみた。

「ル動詞」は昔から造語能力の高い言葉として江戸時代から使われてきて、今は人々の日常生活に浸透していて、社会の多くの領域に深く関わっている。「ル動詞」はほとんどアクセントが全高の3音節の単語で、すべて五段活用している。「ル動詞」の使用によって、会話のスピードを速めたり、内容をユーモアにしたり、発話を和らげてよい人間関係を構築したりすることができる。「ル動詞」に対して、プラス?ニュートラル?マイナスのイメージを持っている人はそれぞれいる。「ル動詞」は正しいか、乱れているかとは一律に論じることができない。それは合理的な言語の変化のひとつで、今後も続けると思われる。

参考文献

米川明彦(2003)『日本俗語大辞典』東京堂出版

米川明彦(1996)『現代若者ことば考」丸善ライブラリー

井上博文(2011)「若者ことばの「体言+る」動詞」大阪教育大学キャンパスことば(27)

鄭香蘭(2007)「若者語におけるル言葉について(Ⅱ)~第二次アンケート調査の分析~」

窪薗晴夫(2006)「若者ことばの言語構造」『月刊言語』3月号大修館

三宅知宏(2002)「「乱れ」と規則性」『月刊言語』8月号大修館

井上史雄(2006)「日本語新表現の合理性」『日本語教育通信』56号日本国際交流基金

宮地裕(1997)「現代洋語の構成」『日本語研究資料集語構成』1:151-157

皮细庚(1997)『日語概説』上海外語教育出版社P229

顧海根(1998)『日本語概論』北京大学出版社P263